カテゴリーの一覧

本作りの日

9月の「◯◯の日」は「本作りの日」でした。もう10月になってしまいましたが、やっと、子どもたちの2つの本が完成しました。

子どもたちにとって、本を作るのははじめてのこと。題材も本の形も決まっていない、ゼロからのスタートです。子どもたちが何を表現しようとするのか、どこから考え始めるのか、私もわくわくしながら本作りの日を待ちました。これはいつも考えていることなのですが、今回は特に、私は極力手も口も出さないようにしようと心がけていました。特に話の内容については100%自分の考えで作ってもらおうと。

すると、できあがった本はどちらも驚くような内容でした。子どもたちの頭の中って本当におもしろい!

小学2年生の女の子が作ったのは、『きりんのくび』という絵本。とっても長い首が自慢のキリンが不思議な生き物と出会い、衝撃の結末を迎えます。かわいらしい表紙と彼女のキャラクターからは想像もできない展開だったので、私は驚いて何度も「ええ!!」と叫びながら読みました。

きりんのくび

他の子どもからも

「△△がそんな話を書くとは、意外やわ」

との感想が。彼女はさくせんかいぎの時には「本なんか作りたくない〜」と本作りに反対していたのですが、ひとたび書き始めると、自分の作った世界にぐっと入り込み、息をつく間もなく一気に書き上げました。

 

一方、「本を作って売りたいねん!」と威勢のよかった言い出しっぺの男子は、いざ書き始めると産みの苦しみを嫌という程味わうことに。4行書いたところで鉛筆が止まり、そのまま3週間が過ぎていました。

ぼくは、さい近気になっている事がある。なぜぼくたち人間は教えられたことをぜったいにしなければいけないのか。ぼくはふしぎでたまらない。みなさんにもこのけいけんがあるかもしれない。では本の中心に入る。

と書かれ、続きが白いままの原稿用紙。大人や社会に向かって思いきり投げつけられたような文章に、講師としてというよりも一人の読者として「早く続きが読みたい」という気持ちにさせられました。

ところが、「上手くいかなかったら別の紙に書き直してもいいし、書いてみようや」とすすめてみたり「例えば、どういう時にこう思ったん?」と続きを引き出そうとしてみたりしても、返ってくるのはしかめっ面ばかり。

無理に書かせられるようなものではないけれど、あの時確かに彼の中には書きたいことが溢れていたはず。このまま終わらせるのはもったいない、そう思い、毎回声をかけ続けました。

そして、9月も終わる頃。9月中には完成させよう、自分でやりたいと思って始めたことやから、頑張って完成させよう、と言い続ける私に「わかった」と渋々うなずき、少年は再び原稿用紙に向かいました。

マスからはみ出た本の最後には

だが決っしてこういうことは思わないでほしい。自分はちゃんとできているからと。ほかの人たちはこういうしれんをこえて大人になったのだから。

とありました。3週間の間に何度も、最後まで書かなければいけないと思わせることで、逆に本作りへの意欲を奪ってしまったらどうしよう、と迷ったけれど、できあがった文章を見て、言い続けてよかったと思いました。これは送り仮名の「っ」を直すのも野暮だなと思い、そのまま受け取りました。

ぼくは、さい近気になっている事がある。

文章を書いて表現することは、同じ言葉を使っているのに話すこととは全然違って、どちらも大切だと思います。文章を書くことは私の生業の一つで、書いている時間が大好きなので、子どもたちにもそのおもしろさを感じてもらえると嬉しいなと改めて感じました。「本作りの日」、おもしろかったなぁ。